レクチャーノート#4: 社会を変える社会起業家

全てのビジネスは社会起業家とも言えるが、主にカリフォルニアのサンフランシスコ周辺のベイエリアを中心に議論してみる。ベイエリアはシリコンバレー、スタンフォード大学、カリフォルニア大学バークレー校など、技術やビジネスモデルを元に世界にインパクトを与えている。また、サンフランシスコも、ニーサム市長の奮闘もあり(ニューサム& ディッキー、2016)、安全で快適な町となっている。ハイテック企業やベンチャーも増え、アメリカのベンチャー志向の若者にとって、最も人気の高い都市の一つとなっている。ベンチャー的思考とともに、社会を良く変えていく思考の活動も盛んである。
 このような社会を変革する活動は色々な言い方がされるが、例えば社会イノベーション(Social Innovation)、社会起業(Social Entreneruship)などと呼ばれるが、そこには民間での起業ノウハウも利用し、社会的貢献と自律的な経営を組み合わせたものも社会的企業(ソーシャル・エンタープライズ)とも呼ばれる(町田、2000)。ただしこのような言葉の意味は不明確で多彩であり、人によっても使い方が違うため、例えばスタンフォード大学では、Social Entrenerushipと言う言葉を避け、Community Engagement(コミュニティへの関わり)もしくはSocial Impact(社会に強い影響を与える)と言う言葉を使っている。
 このような背景でのサンフランシスコでの状況を、日本からも参加者も多い、VIA(Volunteer In Asia:
https://viaprograms.org)の10日間にわたる一つのプログラムに関連して見てみよう。VIAは1963年、スタンフォード大学の新入生のサポートを担当していた教員であったDwight Clarkが、アジアとの相互理解を深める必要を感じ設立した団体で、以降、双方向に学生が訪問するプログラムを実行し、参加者の人生観に大きな影響を与えてきている。
 2018/2/7-2/16の10日間にわたって行われたESI(Exploring Social Innovation)プログラムは日本からの12名を含む総計24名の学生がアジアから参加した。なお日本からの参加者は提携大学からの参加者とともに、個人としてプログラムを自ら見つけて参加している人など、様々であった。この年のプログラムは自らも大きな影響を受けたESIの若い過去参加者5名(米国人2名、中国人2名、慶応よりバークレーに留学中の日本人1名)が楽しく、しっかりしたプログラムを企画運営していた。例えば責任者のYi Zhang)は大学卒業後ロードアイランド・デザイン・スクールの”Design for Social Entrepreneurship”プログラムをリードし、また国連のコスタリカ・オフィスでのインターン経験もある。このロードアイランド・デザイン・スクールまさに、Airbnbの創立者が学んだ学校でもある。そのうちの中国人女性(実際には偶然5人のコーディネーターは全てアジア系の女性であったが)は、大学中退しアリババで働いた後、インドのバンガロールで起業していたり、ジャーナリストとして働きながら世界15カ国で社会的企業での経験を積んでいたなど、制約もないわけでない中国社会の中で、驚くほどのスピードで自己実現に向かってリスクを取っているのは驚きであった。
 10日間のプログラムは、参加者間の交流を通じての異文化の理解、ワークショップと言うVIAの伝統的な活動に加え、現地企業(YouTubeなど)、社会的企業・大学(スタンフォード大学d-school)の訪問、Singurality Universityの幹部の講演とディスカッションに加えい、サンフランシスコのホームレースを一つの材料として社会的問題の把握、整理、解決法を考えていくと言う構成になっていた。社会的問題は複雑で、絶対に正しい解決法があるわけではないし、資金も含め多くの制約がある中で、その複雑な現実に対する自分の関わり方、影響(Impact)を与えることを考えさせると言うものであった。またこの地域でのアプローチには、スピード、技術の利用、失敗を恐れずリスクをとるシリコンバレーの文化の影響は絶大で、その手法の一部にも触れるようになっていた。
 このプログラムのタイミングに合わせ、シリコンバレー企業への訪問を中心にする富士通の社内研修もVIAは行っておりSingurality Universityの幹部の講演は共通していた。またESIプログラムの初日4日間は、Educator Exchangeとしてアジアの大学関係者(日本3名、台湾2名、香港1名)のプログラムも行われており、ESIの研修を観察するとともに、Social Inovationに関わる現地大学の訪問を行った。それも含む現地大学の活動の一部を紹介する。

1:カリフォルニア大学バークレー
バークレー、CALとも呼ばれる私立のスタンフォードと並ぶ州立
の名門校である。西海岸に19世紀半ばに進出した東海岸北部(ニュー・イングランド)の人々が当初のサンフランシスコの支配層であったが、バークレーは、1868年が創立とされる、イェール大学の学長の息子であったシャーマン・ディによりニュー・イングランドの弁護士や聖職者とともに、会衆派(プロテスタントの一派で直接民主制に近い制度を採ることが特徴)の予備学校から改組され、「西のイェール大学」とも言える(ウッダード、2017:p.87)。
  • Master of Development Practice(MDP)の2年間プログラムは自然科学系の学部の中で、持続可能性(Sustainability)を軸とするプロジェクトを行っていく。プロジェクトの地域は内外多彩であるが、学生自身が、現地パートナー、資金の調達なども含め自主的にプロジェクトを進めていく形である。立教大学出身の日本人の鈴木さんは、虐待されている児童の日本の問題を取り上げていたが、社会問題に対する資金調達を専門とする日本のコンサルティング会社から一時離職してのプログラムへの参加であり、新しいファイナンス概念の応用をテーマとしていた。
  • バークレーのビジネス・スクールはハース(Haas)スクールとも呼ばれ、レヴィ・ストラウスを再興した中興の祖である。ビジネス・スクールの科目の中には、社会的インパクトをテーマとして多くの授業があるが、1999年の設立されバークレーを中心とする16の大学が参加しているGlobal Social Venture Competition(http://gsvc.org)がある。世界中の学生チーム誰でも参加できるが、オンラインでの登録によるをローカルなパートながー選考をする第1次から、バークレーで行われる最終(第3次)選考で選ばれた提案には8万ドルの賞金が与えられる。最終選考にあたってはビジネスプランの創造性や実現可能性とともに、1/3はSocial Impactを基準に選考される。
2:スタンフォード大学(https://ja.wikipedia.org/wiki/スタンフォード大学#沿革)
当時のカリフォルニア州知事で、大陸横断鉄道の一つセントラルパシフィック鉄道の創立者でもあるリーランド・スタンフォードが、腸チフスの病で早逝した彼の子息(一人っ子であった)であるリーランド・スタンフォード・ジュニアの名を残すために、ジェーン(英語版)夫人とともに1886年に構想。当時のハーバード大学学長 チャールズ・ウィリアム・エリオット に相談するなど、6年間にわたる準備の末、1891年に設立された。バークレーや後に述べるサンタクララ大学に比べると宗教的背景は薄いとも言える。
  • 10週間と言う短い期間での学部授業の中にもChallenge Serviceとして、専門とService Projectを組み合わせた科目が100以上も設置されている。例えばCS50: using tech for good(http://web.stanford.edu/class/cs50/)は、情報技術(Computer Science)を社会課題の解決に以下に使うかをテーマとした科目であり、実社会の課題に挑戦する具体的なミニプロジェクトが組み合わされている。これらの科目の中には学生の活動から単位を与える科目として発展したものもある。
  • デザインスクール(d-school、世界で模倣される「デザイン思考」発祥の地)は大学院レベルの学際的な組織であり、それぞれの院生は何らかの大学院学部(例えば医学部、ビジネススクール)などに所属している。学部に比べプロジェクトにかける時間がかけられる大学院であり、デザイン思考をもとにした、課題解決型のものである。2017-18の場合は、世界7カ国で10のプロジェクトを複数の専門を持った学生4人のチームで行っている。学生の人気は高く、倍率は3倍であった。プロジェクトは継続的に行われることもあり、結果として具体的な社会起業が設立されることもあると言う。また事前にスタッフが現地に行き、基準を満たしたパートナーが存在することが前提とされている。学生は春休みの7-8日間に実際に現地に行くことになっているが、事前準備として、学内でのミニ・プロジェクト(例えば、植栽の管理者から問題を聞き、解決策をデザインするなど)、方法論を学び、事前にできるだけの情報をメールなどで現地パートナーから収集して行く。
  • PACS(Center on Philanthropy and Civil Society)は主に法学部を基盤とするPhilanthropy(慈善的寄付)を中心とした研究・提言・研究者、基金関係者へのワークショップを行っている。技術、組織形態、CSRなど対象としているテーマは多彩である。また関連した出版であるStanford Social Innovation Review誌は、半数以上の読者が米国外にいる影響力のある雑誌だが、研究成果はこの雑誌を通しても発表される。
  • 経験のある企業人やスタンフォード教員を現地に派遣(Seed Coaches)するプログラムもある。学部、大学院、教員、そして卒業生の社会課題への関与を統合するHaas Center for Public Service(https://haas.stanford.edu)が組織されている。
3:サンタクララ大学
同大学は米国では珍しいカソリック系の大学であり、社会的意識が強いことも背景にある。シリコンバレーに位置し、そこのIT企業で働く人たちが、さらに法律や経営(MBA)を学ぶ場所ともなっている。
  • Miller Center (University of Santa Clara): Global Social Benefit Institute(https://www.scu-social-entrepreneurship.org)がある。そこではベンチャー企業がベンチャーキャピタルへのアプローチに習い、学生中心のプロジェクトを進め、教授陣のメンタリングを通し、プロジェクトの提案(製品の場合はプロトタイプの作成も含む)(社会的)が中心。
  • ビジネススクールにおいてはスタンフォードの学部と同じく、課題解決型のプロジェクトを含む科目が存在する。対象は特に、近隣の極小企業(例えばレストランや店舗)で、例としてはスタッフのスケジュール管理を改善など、ビジネス・スクールで学んだスキルをうまく利用することが求められれている。

<参考文献>
ウッダード、コリン.(2017)『11の国アメリカ史:分断と相克の400年(下)』岩波書店.
ニューサム、ギャビン, & ディッキー、リサ著、稲継博明訳(2016)『未来政府:プラットフォーム民主主義』東洋経済新報社.
町田洋次(2000)『社会起業家―「よい社会」をつくる人たち』PHP.
<ビデオ>
Extreme by Design(http://www.extremebydesignmovie.com)

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